第五章 考察 (続き)

6.  将来人口推計との関係
 超長期の人口推計では、人類はこれまでに旧石器革命、新石器革命(農業革命)、工業革命による大きな人口増加を経験し、それらの人口増大期と人口増大期の間は、微小な増減を繰り返しながらも人口は停滞状況であったとされている(Biraben1979, 2003, 図 ‎V-13)。


図 V-13 超長期人口推計

 本推計で対象とした時代は、これらの時間範囲のうち、農業革命後の人口停滞期以降ということになる。2007年時点では、日本、ドイツを始め、ロシア、その他旧ソビエト圏、東欧の多くの国で実際に人口が減少し、さらに出生率の低下は、ごく少数の例外を除いて、サブサハラアフリカを含めた世界全域で進行しており、産業革命による人口増大フェーズが終焉に近づいているといえる。これまでは人口爆発は継続する、という見方が大勢を占めていたが、東アジアの出生率は「置き換え水準」に戻ることなく低下し続け、中進国をはじめとした出生率低下は予想外に早く、2004年に至って国連は、世界人口は2075年に92億人程度で頭を打ち、その後は減少、もしくは停滞するという推計を公表するに至った。
 過去に複数の人口増減周期があったと考えると、古代・中世の人口停滞というのは、農業革命による人口増大を経た後の人口停滞期ということになり、複数の周期のうちの一つであると考えられる。つまりその時の人口停滞は、「原始的な」社会の高出生・高死亡による人口停滞、というよりは、旧石器革命、農業革命という技術革新を経て一定の技術レベルに達した人間社会が、その人口許容力に応じた人口水準を保っていた時代であったと解釈することができる。この古代・中世という時代は「歴史時代」、つまり文字による記録が残る時代である。そうしたことから、数ある歴史上の人口停滞期のうち、一番史料に富んだ時代であるといえる。この時代の人口水準保持のメカニズムを探ることは、将来、つまりポスト産業革命時代の人口保持メカニズムに対する何らかの知見を与えるはずである。


前へ / 次へ
TOP