第五章 考察 (続き)

5.  歴史上の人口減少
 既存の世界人口推計では、古代から中世にかけて人口停滞があったという点では一致するが、人口減少があったかどうか、それを具体的に数字で示したものはClark推計とBiraben推計のみである。Durand推計は古代・中世の推計時点は紀元1、1000、1500年の三時点のみであり、その間の世界人口数は微増を示している。McEvedy and Jonesの推計は、その推計時点や、地域区分が細かいにも関わらず、合計としての世界人口は1300年から1400年にかけての黒死病による人口減少を除くと、紀元前200年から現代にいたる2200年間、単調増加を示している。この点について、Biraben(1979)は「多くの推計者は古代についてはほぼ単調な増加を仮定している」とし、それを批判している。
 とはいえ、Clark、Birabenの推計についても、その人口減少を確かに証明するような推計根拠は示していない。また、飢饉、戦争、疾病により一時的に人口が減ることがあっても、一定のバランスがとれた社会が長期的に人口減少を続けることは不可能である、という見方もある。
 本モデルにより推計された総人口の動向を地域別に見ると、人口減少はすべての地域、また多くの時点で認められ、さらにそれらは、十大都市人口という具体的なデータを根拠としたものであり、既存の推計よりも客観性があると考えられる(図 ‎V-11)。


図 V-11 総人口推計の地域別比較

 世界人口合計の動向を見ると、紀元1年から361年にかけては人口減少、その後は1200年までのゆるやかな上昇、1300年の人口減少を経て、1700年までにゆるやかな増加、それ以降は大幅な増加、となっている。地域別に見ると、それぞれ異なった動向が見出せるが、共通した傾向もある。紀元361年までの人口減少もしくは停滞は、ほぼすべての地域にみられ、1300年における人口減少は、東アジア、中近東、南アジアに共通して見られる。もう一つの地域をまたがった人口減少としては、17世紀から18世紀にかけて、南アジア、中近東、サブサハラアフリカで観察され、同じ時期に増加を示している東アジア、欧米においても、増加率がゆるやかになっている。つまり、紀元1~4世紀、13世紀、17~18世紀に地域を越えた一定の人口減少、停滞現象が見られている。これらの理由としては、13世紀はモンゴル遊牧民族のユーラシア進出に伴う殺戮による人口減少を指摘することもできる。特に都市人口による推計ではその影響が過大となる可能性もある。
 広い地域における人口停滞、減少は、地球規模的な事象の影響も考慮する必要があろう。気候変動については、10万年単位で氷河期があったことが知られているが、過去2000年間という短期間の変動についても明らかにされつつある。葡萄の収穫日や氷河の位置変化(Le Roy Ladurie 1983)、木の年輪の幅といった直接的な気候を示唆する記録の分析や、近年では湖底堆積物の年稿に含まれる炭素同位体14C、南極などの氷床コアに含まれる酸素同位体18Oの計測により気温の変化が推測されている。炭素同位体14Cによる気温変化の推計は、太陽の活動と大気中の14C濃度には負の比例関係があるという点に基づいており、その変化により過去の気候変化が示されている(図 ‎V-12)。


図 V-12 紀元900年以降の14C変化
注 : 縦軸は14C濃度が反転して記されており、軸が上になるほど温度が高く、下になるほど温度が低くなることを示している。
出典 : U.S.Geological survey(2000)

 広範囲での人口停滞、減少を示した17世紀は小氷河期といわれるMaunder minimum、13世紀は中世高温期からWolf minimumへの移行期となっている。さらに1~4世紀については世界各地で寒冷・乾燥期が観察された(鈴木2000)とされている。気候の寒冷・乾燥化により食糧生産量が低下し、その結果人口が停滞、減少する、というメカニズムは当然考えられる。
 しかし、例えばモンゴル遊牧民族が13世紀に拡大したのは、ステップ地域の乾燥・寒冷化により移動を余儀なくされたという1907年のHuntingtonの説とは逆に、その時期は図 ‎V-12に示される中世高温期であり、温暖・湿潤化により家畜が増えモンゴル遊牧民族の勢力が増大したことが原因だったとする見方がある(鈴木2000)。この温暖・湿潤化により増えるべき人口は、その勢いを増したモンゴル遊牧民族の殺戮により減少の方向に向かったということになり、気候の変化が人口の動向にどのように影響するかは、一義的に決まるわけではない。気候の変化も地域差が多く、また気温が高ければ常に湿潤、低ければ常に乾燥というわけではなく、逆になっているところもある。さらに湿潤であれば洪水による被害もある。気候の変化は確かに人間生活に変化をもたらすが、それが具体的にどう人口動向に影響するかは個別の状況により異なったものとなり、より詳細な分析が必要とされよう。


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