第四章 十大都市人口モデルによる総人口推計結果 本章では、過去2000年間にわたる世界の各地域の十大都市人口を求め、第III章で示されたモデルを用いて各地域の総人口を推計し、それらの総和として世界人口を推計した。その手順を図 IV-1に示す。 ![]() 図 IV-1 十大都市人口モデルによる世界人口推計の手順 注 : La, Lb, u点は、図 III-15を参照
入力データとして、第II章2節で述べた都市人口データを用い、少なくとも上位10都市が挙がるように、地域を中近東(北アフリカ、アラビア半島、トルコ、イラン、中央アジア)、サブサハラアフリカ、南アジア (インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパール、ブータン、スリランカ、モルジブのインド圏7カ国と、東南アジア)、欧米(新大陸としてオセアニアを含む)、東アジア(中国、韓国・朝鮮、日本、モンゴル)の5地域に区分した9。このうち東アジアはその大部分を占める中国の総人口が既知で、韓国・朝鮮および日本もある程度データがあることから、推計を行わず、史料による総人口データをそのまま用いることとした。 ![]() 図 IV-2 地域別の境界年以降十大都市人口と総人口の関係 各地域の境界年以降関係式La及び境界年以前関係式Lbは表 IV-1のように計算された。 ![]()
1. 世界人口推計結果 ![]() * SSA : サブサハラアフリカ 注: サブサハラアフリカの622年以前の値は、800年と900年の値を直線補外して求めた。 本推計結果を既存の推計値と比較すると(図 IV-3)、本推計は特に1200年から1500年までが、既存推計と比べ低めであるが、それ以外ではおおむね既存推計のレベルに近似している。1200年から1500年まで本推計が低値なのは、欧米人口推計が既存推計よりも大幅に低いことに起因する。 ![]() 図 IV-3 世界総人口の推移 本推計では人口減少が361年と1300年に観察された。361年は推計した全ての地域で人口減少が認められ、世界的な傾向であることがわかる。1200年から1300年にかけては計2319万人の人口減少があったと推計され、その減少率は年-0.08%である。地域的には東アジア、中近東、南アジアに著しく、十大都市を個別にみるとこの人口減少はモンゴルのユーラシア進出が大きな要因であると考えられる11。 一方、既存推計のうちBiraben推計では大きな値で、McEvedy and Jones推計では若干控えめに推計されている1400年の黒死病に起因する世界人口の減少は、本推計では認められない。本推計の欧米人口では、1300年から1350年にかけて人口減少が見られるが、その後1400年には1300年の水準以上に回復している。また中国でも1300年から1400年の間に同じく人口減少が起こっているが、その減少幅はその他の地域の人口増加により相殺されている。したがって、14世紀に黒死病による世界人口の極端な人口減少が起こった、という見方は、本推計からは得ることが出来なかった。 各地域別の人口構成割合を見ると(図 IV-4)、欧米人口の中世にかけての構成割合の低下、および中近東の近代にかけての構成割合の低下が目立つが、南、東アジアでは60%内外と変動を続けながらも常に過半数を占めていた、という結果になった。 ![]() 図 IV-4 地域別人口構成割合の推移 紀元1年、500年、1000年、1500年、1800年前後の各時点で地域別人口構成割合を既存推計と比較すると(表 IV-3)、本推計では、欧米の1000年、1500年の人口構成比が他推計と比べて低く、南アジアの1500年の人口構成比がやや高くなった。
![]() ![]() * Durandは0年としているが、0年は存在しないために1年とした。
9. 地域区分は、順位規模分布が成り立つような交流圏と一致する必要がある。従って実際には時代に応じてその地域は変化している可能性があるが、ここでは原則的に現在の国境を基準にして地域区分を定めて、推計期間一定とした。例外として15世紀以前のイベリア半島はイスラム勢力圏であり、北アフリカにある都市との順位規模的関連が大きいため、その時代の都市は中近東に属するものとした。
10. かならずしもすべての国で1900年以前から、欧米の場合は1850年以前からセンサスが行われていたわけではない。特にサブサハラアフリカ・中近東については、1900年の人口値が現在の人口値程度の精度を持つとはいえない。しかしその後のセンサス情報から、近い過去についてはある程度の精度の遡及推計が可能であり、ここで用いた総人口値は既存世界推計で提示されている値の最頻値、もしくは平均値を採用した。
11. この時代にモンゴルの侵入をうけて宋から元に王朝が変わった中国では、3035万人の人口減を記録しており、中近東、南アジアの上位10都市の動向を見ると、コンスタンティノープル、パガンなどでモンゴル侵略により人口減少が起こっている。
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