訳者まえがき

 「漢字は聖書からできている」--- という「奇説」を最初に私が聞いたのは、東京で、敬けんなクリスチャンであるドイツの友人からであった。その友人が、香港に旅行した際にたまたま本屋で原著「The Discovery of Genesis」を見つけ、持って帰った本を見せてもらった。その時に、瞬時に私が返した反応は、漢字が聖書から作られているのではなく、聖書が漢字から、もしくは中国文明からできているのではないか、といったものである。読んでみると、おもしろい。翻訳することにした。

 漢字について我々が知っている知識というのは限られている。大部分の日本人、もしくは中国人は、漢字について、日や月、川や火、といった漢字に代表されるような、自然の形に基づいて作られた象形文字である、と信じているし、教えられてきた。しかし、その他の漢字はどうなのか。5000字、もしくは5万字あるとも言われる漢字すべての成り立ちについては、まだまだ研究の余地がある。

 甲骨文字が最初に発見されたのは、1899年のことである。それからまだ100年も経っていない。漢字のみならず、古代中国について、これから発見される新事実が多くあるだろうし、またアジア人として我々のルーツを科学的に解明していくことは、責務でもある。開発でどんどん失われている中国の古代遺跡を保護し、研究するために、何かをしなければいけない、とも感じている。

 私自身としては、キリスト教徒でもないし、旧約聖書が漢字のルーツであったとは、そのまま信じて受け入れるものではない。が、旧約聖書自体が、一つの古代文明の記録であり、洪水伝説など他文明の古代史と重複している部分もあるということから、漢字の成り立ちに、古代の事実が隠されている、ということには、大変なロマンを感じるのだ。


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