アッサラーム85号掲載(イスラミックセンタージャパン刊行)
2001年5月
林玲子
2 人口概況
それでは、湾岸諸国6カ国人口2,867万人の内訳は、どのようになっているのだろうか?
まず国別に見ると、サウディ・アラビアがその7割を占め、UAE、オマーン、クウェートが8-9%程度、バハレーン、カタールがそれぞれ2%となっている。
クウェイト |
バハレーン |
カタル |
アラブ首長国連邦 |
サウディ・アラビア |
オマーン |
合計 |
|
人口 (a) |
2,265,515 |
625,783 |
546,784 |
2,662,983 |
20,174,045 |
2,397,112 |
28,672,222 |
国土面積( km2) |
17,818 |
707 |
11,427 |
83,600 |
2,150,000 |
310,000 |
2,573,552 |
人口密度(人口 /km2) |
127.1 |
8585.1 |
47.9 |
31.9 |
9.4 |
7.7 |
11.1 |
一人あたり GNP(US$) (b) |
20,190 |
8,640 |
11,340 |
18,240 |
7,150 |
4,940 |
|
建国年 |
1961 |
1971 |
1971 |
1971 |
1932 |
1650 |
|
国勢調査実行年 |
1957,61,65 |
1941,50,59 |
1970,86 |
1968,71,75 |
1962/63,74 |
1993,(2003) |
3 激しい人口増加
湾岸諸国全体の人口は、1980年から1998年にかけて自国民も外国人も大きく上昇している(図 2)。
バハレーン |
クウェイト |
アラブ首長国連邦 |
カタル |
サウディ・アラビア |
オマーン |
世界 |
|
1978 |
5.2 |
5.9 |
5.7 |
6.1 |
7.3 |
7.2 |
3.9 |
1998 |
2.9 |
2.9 |
3.4 |
3.7 |
5.8 |
5.9 |
2.7 |
これらの値は、自国民・外国人を合わせた数字である。湾岸諸国における外国人の構成は当初アラブ人中心であったが、後にインド人などを含めたアジア人が増加した。そのため「外国人」と一口に言っても、その出生率の内容は異なることになる。そこで自国民について出生率を観察してみると、図 4に示すよう、自国民の出生率は、年々下がってきていることが分かる。しかし、1996年から1998年にかけて、カタル、クウェイト、アラブ首長国連邦で再び上昇している。
これら出生率が上がった3ヶ国について年齢別出生率を観察すると(図 5)、クウェイトでは全年齢層で出生率が上昇、カタルでは30歳以上の出生率が上昇、アラブ首長国連邦では逆に低年齢(15-24歳)の出生率が上昇している。
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これら3ヶ国の出生率の上昇について上記のデータだけでは判断できないが、出生率向上の政策がとられていることも理由の一つとして考えられよう。
5 死亡率の低下と人口転換
1990-1991年のイラクによるクウェイト侵攻は、外国人が過半数を占める国家体制が不安定であることを露呈した。その結果、一時的な外国人の出国を促し、また長期的政策として自国民を増やす政策がとられている。
クウェイトにおける出生・及び育児振興策として、@子供一人あたり月額50クウェイト・ディナール(=約2万円)という高い育児手当、A出産後2ヶ月の給与全額保障、その後4ヶ月の半額保障が規定された育児休暇、B政府による大学・大学院レベルまでを含めた教育費及び医療費の完全負担、その他、食費・光熱費・住居費などの政府補助、Cクウェイト人の雇用の自動的な確保、D政府による年金保障、等があげられる。また、非常に安い賃金で雇うことの出来る外国人メイドが存在し、育児労働もクウェイト人にとってはかなり軽減されている。
近年の医療水準の向上に伴って死亡率が低下し、平均寿命は、ほぼ70〜75歳と湾岸諸国六ヶ国で大きな違いは見られないが、その経緯は各国で若干異なっている。
図 6は、各国の自国民の平均寿命と合計特殊出生率の推移を示しているが、平均寿命について、クウェイト、バハレーンは1970年代からすでに60〜70歳代であったのに比べ、サウディ・アラビア・オマーンでは同時期に40歳代であった。カタル、アラブ首長国連邦は、データのばらつきが大きいが、1980年代に入ると60歳代となり、オマーン・サウディ・アラビアのがそのレベルに達するのは1990年代である。
6 高い外国人比率
湾岸諸国全体では、外国人の割合は37%であり、この数字は世界的に見て非常に高いといえる。日本の外国人割合は総人口の1.2% (脚注3) 、欧米ではフランスが6.8%(脚注4)、西ドイツが7.3%(脚注4)、移民の国といわれるアメリカ合衆国は国籍取得以前の移民についての制限が厳しいこともあり、移民の住民に対する割合はわずか0.3% (脚注5)である。
各国別に外国人の割合を観察すると(図 7)、アラブ首長国連邦、カタルでは外国人の割合は70%台と非常に高く、カタルは近年若干の減少傾向があるものの、アラブ首長国連邦は1992年から上昇しつづけている。
クウェイトは、前述の通り、イラクによるクウェイト侵攻の後、急激に外国人比率が減少しているが、1996年以来再び上昇し、以前より外国人比率が多くなっている。
オマーン、サウディ・アラビアは、湾岸諸国の中では外国人の比率が低く、90年代に入ってからは20%台に留まっている。特にサウディ・アラビアについては自国民の雇用確保という観点から外国人の流入を調節しているという一面もある。ただし、サウディ・アラビアの人口が大きいことから、湾岸諸国の外国人の54%はサウディ・アラビアに居住しており、大きな外国人受け入れ国であることに違いはない。
バハレーン |
クウェイト |
オマーン |
カタル |
サウディ・アラビア |
アラブ首長国連邦 |
|||||||
1975 |
1980 |
1975 |
1980 |
1975 |
1980 |
1975 |
1980 |
1975 |
1980 |
1975 |
1980 |
|
アラブ人 |
21% |
13% |
69% |
64% |
12% |
12% |
28% |
25% |
90% |
80% |
25% |
22% |
アジア人 |
63% |
77% |
30% |
34% |
84% |
83% |
71% |
73% |
6% |
16% |
73% |
75% |
その他 |
15% |
10% |
1% |
1% |
4% |
4% |
1% |
2% |
3% |
4% |
2% |
3% |
合計 |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
100% |
また、データの得られるクウェイトについてさらに近年の動向を観察すると(図 8)、1980年以降アラブ人外国人が減ってきている代わりにアジア人が大きく増加しており、1997年には外国人全体が増加しているにもかかわらず、アラブ人は減少し、アジア人が大きく増加している。
近年、クウェート人の職業は、サービスや生産労働者の割合が減って、専門・技術職・事務職が増えており、これまで外国人が行っていた高度な技術を必要とする職業が、高い人口増加率と教育水準の向上によりクウェート人により行われるようになった。それに伴い、生産労働などに従事するアジア人化が進み、自国民労働者と外国人労働者はそれぞれ職業を棲み別けた、「共生」の関係が生まれているともいわれる(脚注6)
国家のあり方を考える上で、これら湾岸諸国の外国人の動向は貴重な洞察を与えてくれるであろう。
1."A System for collecting vital statistics in Gulf Cooperation Council countries", Mustafa al-Shalkani, Population Bulletin of ESCWA, pp.43-, Number35/36/37, 1989/90
Copyright 1997-2001
2."Patterns of Desired Fertility and Contraceptive Use in Kuwait", Nasra M. Shah, Makhdoom A. Shah and Zoran Radovanovic, Family Planning Perspectives, Volume 24, No. 3, August 1998
3.日本国における外国人登録人数1,512,116人を当該年の人口で割って求めたもの。
4.「国際人口移動に関する統計資料−世界と日本の動向」人口問題研究所、1991年
5.Resident Population(267,744,000人:1997年)に対するImmigrant Population(798,378人:1997年)
6.「中東における国際労働力移動」、吉田良生、「統計」1998年49-3, pp.14-20
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